Vol.1ニュージーランド、神秘の森を旅して by Toshitake Suzuki
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ニュージーランド南島の南端にあるフィヨルドランド国立公園。
現在僕はこの公園内にある『世界一美しい散歩道』と呼ばれるミルフォードトラックのガイドとして働いている。原生林の森を4泊5日で54km歩くツアーのガイドだ。 この一帯は世界自然遺産に登録されており、入山者数は厳しく制限されているため、一度森に入れば他の人と会うことはまずない。
ここは屋久島の約2倍の降水量があり、まさに水の楽園だ。
60センチを超える天然のトラウトが数多く生息し、それがドライフライ、サイトフィッシングで釣れる。物事はなんでも、自分が努力、エネルギーを費やした分だけその見返りも大きい。 過程を楽しめなかったら全く意味がない。
釣り人の最終目的は結局『魚を釣ること』であるかもしれないが、ニュージーランドでは計画→釣り場までのアクセス→釣りの全てが最高に楽しく、どれも捨て難い。そんなこんなで僕は仕事でこの森を歩き、休みのプライベートでもテントと釣竿を持ってこの森を歩き回っている。
2013年10月~現在に至るまでに仕事で約3000kmこの森を歩き、プライベートの釣りトリップも合計時間約2ヶ月以上この森で過ごしている。
ここは僕の愛すべきオフィスであり、遊び場であり、ホームなのだ。 今回は僕流のニュージーランドでのフィッシングトリップを紹介させていただこう!地図と釣り人のあてにならない噂を頼りに目的地を決める。 偉大なる作家、旅人、開高健は、『釣り人程嘘つきな人種はいない』ようなことを言っていた。 最終的には自分の直感に頼る。僕は1度の釣りトリップで約3~5日間森の中に入る。その間他の人間を見ることはまずない。何が起きても全て自己責任だ。あるトリップではフィヨルドランド特有の大雨により川が増水し、川の反対側で2日間身動きが取れなかったことがあった。笑
フィヨルドランド国立公園、原生林の森の様子。魚を求めて歩き回る。
地面一帯を覆う苔たち、苔の絨毯が出来上がるまでに何十年と時間がかかる。
1度破壊されるとなかなか回復しないため、恐る恐る歩かせていただく。
初めて1人で森に入った時は緊張し、ビクビクしていたが、 その緊張感がある種のアドレナリンに変わり、この上ない高揚感を与えてくれるようになった。
また、アラスカ、ユーコン、カナダ、アメリカ本土でも1人で森に入り釣りトリップをしたことがあるが、絶対的な大きな違いがニュージーランドにはある。
大型肉食動物の存在だ。熊やクーガーに襲われる心配が全くない。これは精神的に物凄く大きい、本当に!1日に20km以上歩くこともあるが、景色がこれだけに全く飽きることはない。
1日の終わり、歩き回ったあげく、たとえ魚が釣れなかったとしても、大満足だ。
釣れなかったことはないが!笑ここでの釣りは川に着いたらまずひたすら魚を探すことから始まる。
音を立てず、忍者の様に忍び足で歩く。
見つかるまでひたすら歩く。
ハンティングと言っても過言ではない。
川の水は透き通っていて、水深10mの所でも川底が見えるくらいだ。
フィルターなど通さず飲み水としてそのまま飲める程綺麗。なので僕は5日間の旅でも500mlの水筒しか持っていかない。
魚がいそうなところにはほぼ必ず魚がいるのがここの特徴だ。やっぱりいた!
60センチを優に超すレインボーが水深50センチの所で水面の虫を一生懸命、ノンストップで捕食している。
まずは観察、大型のトラウトの水面捕食程美しいものはない。笑 次に後方からゆっくり静かに近寄り、キャスティングの体勢を整える。
近づきすぎたり、角度が悪いと魚に気づかれゲームオーバーだ。
そしてついにキャスティング。心臓はドキドキだ。
トラウトもバカではないし、自殺もしたくない。
命をかけた真剣勝負だ。フライは魚の口元約1メートル上流に着水。
緊張で心臓発作寸前だ。
流れが早く僕の#14、パラシュートアダム(ちなみに僕はこのフライのこの番号を愛している、いい思い出しかない) が目に入らなかったのか、反応なし。
1度反応がなかったらフライを変えるのがニュージー流?だが、僕は念のためもう1度アダムで竿を振った。
ある釣り気狂いの友人がフライの種類はほとんど関係ない、どれだけそのフライを信じて投げ続けられるかなんだと語っていたのを思い出す。笑
フライは魚の口元約1メートル上流、30センチ右よりに着水。
フライが魚に近づいた途端に大きな影が勢いよく右に動き、ワニ並みの口が水面に出た!!!!
川の流れる音にもかかわらず魚の食べる音が聞こえた。『バこっ!!!』
『食った!!!!』っが焦ってはいけない。
数秒、間を置き優しくフッキング。 乗った。竿に重みが感じられた瞬間、猛烈に走り出す魚。
リールのドラッグは悲鳴をあげながらラインは30メートル以上一瞬にして出てしまった。
魚は決して諦めず、遠方でジャンプを数回繰り返すと、一転してこちらに向かって走ってくる。
これを3度ほど、10分弱繰り返し、ついに魚が僕のもとへ。ニュージーランド、フィヨルドランド産、天然レインボートラウト。決して諦めず最後まで戦う果敢なファイター。
魚1匹1匹が全く違う顔をしている。魚に遊んでくれたお礼をいい、水の中でバランスを取ってあげると、勢いよく下流に向かって泳いでいく。
また出会えるだろうか?ふと空を見上げると長い長い時間をかけて、3回の氷河の移動によって削られた垂直な500メートル程の絶壁に囲まれている。世界一の岩壁と言われるカリフォルニア、ヨセミテ国立公園のエルキャピタンに比肩を取らない、その堂々とした勢。
魚を探すことばかりに夢中で全く気がつかなかった。
大自然の中、なんだかおかしくて1人で笑い出す。
釣りしてなかったらここに来なかったかもしれない。僕はなぜ釣りをしているのか。
きっと僕なりの、自分の周りの環境を理解するための方法で手段なのかもしれない。